沖縄百寿者調査

1975年に開始されたOCSとその1000名以上の参加者は老化現象と長寿の理解において重要な貢献を果たしています。

沖縄の健康的な老化に関する実績を正しく理解するために説明すると、OCSが面談を行った百寿者の多くは19世紀末付近に誕生しています。

当時の日本における男女の平均寿命は40歳を若干上回る程度でした。これらの百寿者が平均寿命を数十年上回る年数を生き、感染症、自然災害、そして沖縄を襲った世界大戦を生き残ったという事実は特筆に値します。

沖縄北部の大宜味村の石碑では「80(歳)はサラワラビ(童)、90(歳)となって迎えに来たら、100(歳)まで待てと追い返せ。」と記されています。

沖縄における健康の重要性は、加齢に伴う典型的な行基が沖縄、日本、アメリカそれぞれの人口10万人の代表的な都市に与える影響を検証することで評価できます。アメリカの死因第一位である冠状動脈性心疾患(CHD)では、ある都市が沖縄にあると仮定するとその都市がアメリカにある場合よりも死亡者数は男性では約3分の1、女性では約4分の1となります。これは顕著な違いです。

手法

現在、調査では1000人以上の百寿者、そして数百人の70代、80代、そして90代の高齢者の面談と検査を行っています。OCSでは彼らの食生活、運動習慣、遺伝的特徴、心理的そして精神的活動、社会的及び行動学的パターンに共通する要素を特定しています。異なる領域にまたがる生物学的、社会的そして文化的状況下で超高齢者の調査を行うことで、 疾病予防や健康な長寿を促進するプロセスの解明をOCSは目指しています。

OCSの一般的手法:

  • 集団研究
  • 横断的、縦断的、ケースコントロール
  • 年齢確認
  • 高齢者検査、過去の病歴、社会歴、家族歴、健康習慣、人体測定学、心電図、心理社会的/認知試験
  • 家系図
  • 日常生活動作 (ADL) と手段的日常生活動作 (IADL)の評価
  • 採血と分析

重要な所見

OCSは葉巻を吸い、ウィスキーを飲み、山を軽々と駆け回る百寿者は存在しないことを知っています。集団研究の結果、百寿者の集団間でも機能的自立から重度の疾病や障害まで幅が広いことが証明されています。沖縄では、百寿者の約3分の1が機能的に自立し、約3分の1が日常生活動作(ADL)で多大な支援を必要とし、約3分の1が重度の疾病と障害を持っています (Sanabe et al. 1977; Suzuki et al. 1995 PMID: 7500549)。

このような超高齢者においても重度の障害は存在しますが、多くの百寿者は人生において平均的個人よりも健康であり、90歳代半ばまで機能的自立を維持しています (Willcox et al. 2008 PMID: 19038835)。以下では、食生活、社会活動、そして遺伝的特徴という沖縄の生活様式の3つの重要な側面について論じています。

沖縄の食生活

沖縄における長寿の原因の多くは、低カロリーでありながら栄養素が豊富で、特に抗酸化物質やフラボノイドの形で植物栄養素を豊富に含む伝統的な沖縄の食生活に関連していると考えられています。研究の結果、慢性疾患のリスクの低い食生活は野菜や果物が豊富(そのため、植物栄養素や抗酸化物質が豊富)でありながら、肉、精製穀物、飽和脂肪、塩分、そして全脂肪乳製品が少ないという点で伝統的な沖縄の食生活に類似しています。

第二次大戦前の伝統的な沖縄の食生活は中国、日本、そして東南アジアの影響を受けていました。この融合は沖縄方言で「混ぜる」という意味を持つ「チャンプルー」と呼ばれます。伝統的な沖縄料理の主食は本土の精製白米とは対照的に様々で色鮮やかなサツマイモでした。ふかしたサツマイモに加えて、多種多様な緑色野菜や黄色い根菜の煮物や蒸した料理、そして豆腐、みそ汁、 味噌など調味料を含めた大豆ベースの製品が食卓に並びました。このような主食と共に魚、豚肉のような赤肉、シークワーサーのようなトロピカルフルーツが提供されました。沖縄では味付けにはカツオだしが好んで使用され、塩の代わりにウコンやよもぎが香辛料としてふんだんに使用されました。また、沖縄では日常的に様々なお祭りがあり、米、昆布、様々な肉やその他の海産物が食卓に並びました。

実際、伝統的な沖縄の食生活は伝統的な地中海式の食生活や現代のDASH食 (高血圧を防ぐ食事) のような、その他の健康な食生活と多くの共通点があります。これらの食生活では飽和脂肪が少なく、抗酸化物質の摂取量が少なく、グリセミックロードが低いため、酸化ストレスの軽減を含めた複数のメカニズムを通じて心血管疾患、一部のがん、その他の慢性疾患のリスクの低下に貢献しています。

沖縄では、低カロリーで植物栄養素が豊富で、栄養豊富な食生活、健康的な食習慣、そして運動量の多さが栄養失調となることなく自然にカロリーを制限することにつながっています。伝統的な食習慣では、少量の食事と満腹になるまで食べないことが重視されます。現在でも、沖縄の高齢者の間では腹八分(80%満腹になるまで食べる)が提唱されています。1960年代以前の沖縄人はカロリー指針で通常必要とされているより10-15%少ないカロリーしか消費していなかった、と概算しています(Willcox et al. 2007 PMID: 17986602)。慢性的なエネルギー不足に直面すると、哺乳類はよりエネルギー効率を向上させることで適応を図り、熱の発生量を減らし、食事のより大部分を使用可能なエネルギーへと変換します。その他多くの代謝適応が長寿に寄与しています。このような変化は動物を用いた「カロリー制限(CR)」試験で一般的に観察され、遺伝操作を選択する以外では唯一安定して再現可能な平均及び最大寿命の増加手段です。(Fontana et al. 2010 PMID: 20395504)。

さらに、伝統的な沖縄の食生活はCRの生物学的効果を模倣する食物の宝庫であり、カロリー制限「ミメティック」の役割を果たしています。CRミメティックは酸化ストレスの軽減を含めた複数のメカニズムを通じてカロリー制限を行う必要なくCRの生理学的利点を提供する化合物です。沖縄方言で一般的な「ヌチグスイ」という言い回しは「命の薬となるような食べ物」と翻訳できます。これは沖縄では食べ物と薬の境界があいまいであるという文化的背景を反映しており、より深く分析を行うことで沖縄の食生活の伝統的な食べ物、ハーブ、あるいは香辛料の多くに医学的特性があることが判明しており、現在この点に関する調査が進んでいます (Willcox & Willcox 2014 PMID: 24462788)。

ヌチグスイ「命の薬となるような食べ物」 - 沖縄人の長寿の秘訣と我々の遺伝研究の調査結果の詳細